副社長は溺愛御曹司
向かいに座った延大が、元気づけるように、その頭をぐしゃぐしゃとかき回してくれる。



「お前はそれよりも、人を覚える訓練をすることだ。これ、大事だぜ、マジで」

「わかってるよ…」



父親の生活で垣間見て、覚悟してはいたけれど、取締役の日々は、外交に次ぐ外交で。

なにこれバカみたい、と思う自分もいたけれど、こういう場での協力会社や同業とのやりとりが、どれだけ重要かぐらい、わかる。


ここで、あいつはダメだと思われたら、会社全体にその烙印を押されたも、同然なんだ。

逆に、ここで面白い奴と思ってもらえれば、その先どんな取り組みにも持ちこめる可能性が生まれる。


話しすぎてもダメ、秘密主義すぎてもダメ。

特定の企業とだけ露骨に絡むのもダメ。

対人関係と同じだ。


次に会った時、前回話した内容を覚えていないのなんて、もってのほか。

顔を覚えていないなんて、論外だ。


どうしよう。



「泣くなよ」

「いっそ泣きたい」



色とりどりのライトがきらめく店内で、ソファの背に頭を預けて、大きなため息をついた。

こんなところでつまずくと、思わなかった。


経営者と名前はついても、実際のマネジメントはコンサルタント任せ、という企業トップも増えている中。

自分は、バランスシートだって読めるし、事業部ごとの損益も、そこから見える台所事情も、かなり細かく把握している。

事業部長時代から、コンプライアンスの知識もつけていたし、業界では先進的なCSRの必要性も説いていた。



それが、ここに来て。

致命的に、外交に不向きなんて。



これまで、社外の誰かと会うとはいっても、しょせん現場レベルの人間で。

手を動かす仕事をする者同士、話しはじめてしまえば、自分の初対面嫌いを意識することなど、なくて済んだ。
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