副社長は溺愛御曹司
「お名前、聞いてもいいですか」
「ヤマト」
「ヤマト? かっこいい名前」
名前じゃないんだけどね、と無駄に混乱させてやると、女の子が不思議そうに首をかしげて、でも、明るく笑う気配がした。
特に露出度の高くない服装が、好ましい。
別に、高いのも嫌いじゃないけど。
もしかしたら、そこそこいい会社の、秘書か何かじゃないだろうか。
立ち振る舞いや、グラスを扱う所作が、なんとなく、それっぽい。
全体的に、神谷より少し派手めで、たぶんボスも、そんな感じなんだろう。
そう考えて、やたら神谷が登場するな、と首をひねった。
「よく、来るんですか」
カクテルグラスに残った液体をなめながら、彼女が言う。
徐々に、顔が見えはじめてきた。
うん、やっぱり、悪くない。
狭いカウチなので、意図的に距離をとろうとしない限り、脚も肩もべったり触れる。
ちょっと親しみをこめて話そうとするだけで、相手の髪が頬をくすぐるくらいに近づく。
「そこそこね」
「お兄さん、かっこいいですね」
ささやくように、いたずらっぽく言う彼女が、ふっと、ごくわずかに、身を寄せてきた。
脚を組んで、彼女に近いほうの腕でグラスを持っていたヤマトは、ふむ、と考える。
『入って』きた。
これは、もう、どうにでもなるだろう。
今日は特に、そういうつもりで来たのではなかったけれど。
そういえば年度末からこっち、全然遊ぶひまもなかったし、そろそろ、アリだ。
グラスを反対の手に持ちかえて、空いた腕を背もたれに預けたところに。
勘のいいらしい彼女が軽く、ヤマトの肩口に頭を寄せる。