副社長は溺愛御曹司
見あげてくる顔は、ようやく、まつ毛の一本一本を認識できるくらいまで、直視できるようになっていて。

あっさりと整った顔立ちを、趣味のいいメイクで飾っている、ほがらかな微笑みを見てとれた。



「俺も、それなりだと思うんだけど」



あながち、完全に冗談でもないような気分で、正直に言ってみると。

声を上げて笑った彼女が、急にリラックスしたように、今度こそ完全に、もたれるように頭を預けてくる。



「そう言おうと思ってたの」

「だよね」



片腕を首に回すと、素直にこちらを見あげてきたので、店内が暗いのをいいことに、ためらいもなくキスを落とす。

唇を重ねたまま、彼女が吹き出すように笑ったのに、つられて笑い、何度か少し遊ぶように口づけて、離れた。


至近距離で微笑む顔は、可愛らしくて。



だけど、神谷にはあんまり似てないな、と思った。








わかった。

なんでこの間、神谷が頭をちらついたのか。



「も、申し訳ありません」

「平気?」



香りが、同じだったんだ。

いや、完全に同じかどうかは自信がないけど、少なくとも、似ている。


役員フロアの廊下で、少し前を歩いていた神谷が、突然ヤマトのほうへ後ろ向きに倒れこんできたのを、慌てて支えて。

さかさにのぞきこんで尋ねると、動揺したんだろう、少し顔を赤くした神谷が、必死にうなずく。

揺れる髪からふっと届く香りに、そうそう、これこれ、と記憶がつながった。
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