副社長は溺愛御曹司
階級別の研修制度を、もっと手厚くしたほうがいいんだろうか、と考えつつ。

例えば自分が何かの研修を受けたとして、もっとましな初対面を迎えられるようになるのかと問うと、それはないという気がした。



「お前も、精進しないとねえ」

「してるよ、これでも」

「この間の子とは、続いてんの?」

「この間の子って、どの子?」



頭をはたかれた。

夏前に、店で会った子だよ、と言われ、ああ、と思い出していると、香ばしい香りとともに、和之がリビングへ戻ってくる。



「兄貴は、まだしょうもないことしてんの」

「相変わらずだよ。最初は、人見知りして、はにかむばかりで、何も喋れないくせに」

「別に、はにかむとか、してないし」



してんだよ、と再び頭を叩かれた。

人見知りなんて言葉も、とっくに成人した男に、気持ち悪いだけじゃん、と思いつつも、誰もかれもが、ヤマトをそう形容する。

なんでだろう。

自分としては、初対面が苦手ってだけなのに。


和之がつくってくれたのは、パスタのフライだった。

きつね色に揚がった、プレッツェルのようなそれを、グラスに挿して、小皿にマヨネーズやチリパウダーを乗せてきている。

この短時間に、たいしたもんだなあ、と感心しつつ、さっそく一本もらった。



「店って、いつもの?」

「そう。ちょっとドリンクとりにいって戻ったら、人目もはばからず、イチャついてて」

「最低」

「はばかるような店じゃ、ないだろ」



そこじゃない、とふたりにつっこまれ、じゃあどこだよ、と面白くない気分になる。

別にあの子と続いたわけでも、そもそもあの子が最後なわけでもないけれど。

そんなことを白状したら、さらにつるしあげられるのは目に見えていたので、黙っておくことにした。



「兄貴は、どうしたの、あの後」

「何杯かおごってあげただけだよ。お前と一緒にすんな」



完全にバカにしたように言われて、なんだよ、ちょっと前までは、一緒だったくせに、と言い返してやりたくなる。
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