副社長は溺愛御曹司

「間違っても、神谷ちゃんに手、出すなよ」

「神谷さんは、だって、彼氏、いるだろ」

「なにその、いなかったら出すかも、的な発言」



そんなつもりじゃない、と言い返すと、あ、そう、と弟に流され、その生意気さに一発殴った。


神谷は、だって、違うだろう。

向こうは全然、俺になんか、興味ないし。

そのくらい、わかる。


可愛いなとは、思うけど。

ありがたいとも、思うけど。

それでも、違うだろう。


だって、神谷は。








『ヤマトさん? おはようございます』



聞き慣れた神谷の声に、頭がついていかなかった。



「…おはよ?」

『お休みでしたか。申し訳ございません』



お休みだったかどうかも定かでない。

画面も確認せずに出た携帯を耳にあてながら、ぼんやりと周囲を見回して、ああそうだ、と記憶がよみがえるのを感じた。

そうだ、確かに、寝てたんだ。


転がっている兄と弟を起こさないように、そっと廊下へ出て、ドアを閉める。

今、何時? と訊くと、もう午後ですよ、と優しい声が、おかしそうに笑った。



『スケジュールを更新されていたので。ちょうどそのあたりに入りそうなお誘いがあったんです。お断りしてよろしいですか』

「あ、ほんと。どこ?」



ヤマトと神谷が共有しているスケジュール管理ソフトは、携帯からも編集、閲覧できる。

ゆうべ、火曜の夜にプライベートの時間を入れておいたのを、もう確認してくれたんだ。

休みの日なのに、と頭が下がる思いだった。


神谷が伝えてきた会社は、まあ、夏休み後に再設定しても問題のない相手で。

そうお願いすると、神谷はいつものように、かしこまりました、と柔らかく言った。
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