副社長は溺愛御曹司

「夏休み、何するの?」

『え?』



ふと思いついて、訊いてみると。

予想外の質問だったのか、あせったような声が上がって、しばらく沈黙がおりた。



『じ、実家に帰ります』

「実家で、何するの」

『ええと、家のことを手伝ったりとか、まあ、親孝行をしつつ、のんびりと…』

「神谷さんって、ひとりっ子?」



そうです、という返事に、やっぱりなあと思った。

兄弟がいると、自然と役割分担ができて、面倒見のいい奴と、わがまま言う奴と、傍観する奴と、みたいに分かれるものだけれど。

神谷には、それが全部詰めこまれている気がしていた。


しっかり者なのに、どこか危なっかしくて、可愛らしいのに、わりとおっかない。



「ゆっくり休んでね」

『ヤマトさんも』



何かありましたら、ご連絡くださいね、と明るく言い残して、電話は切れた。

耳に残る、優しい声。


ああ、そうかと思った。

自分は。


神谷のように、働きたかったのだ。





自分が何をすべきかを、わかっている。

すべきことは、たいていできる。

それに甘んじているわけでもなく、向上心はしっかりあって。

だけど、ガツガツしてとげとげしかったり、周囲を蹴落とそうとしたりするところは、いっさいない。


たぶん、秘書というものが、そもそもそう求められるんだろうけれど、神谷のすごいところは、いつも一定なところだ。

こちらが多少へこんでようが慌てていようが、いつも同じペースに、同じテンションでいてくれる。
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