副社長は溺愛御曹司


「お前、神谷ちゃんと、何かあったの」

「いっぱいあったよ」



PCを叩いていたヤマトは、実行されていたコンパイラが停止したことに苛立ち、デスクのキャビネを蹴った。

兄のほうを見もせずに、つまらない書き間違いをした該当行を呼び出し、ソースを修正する。

こんな凡ミス、自分がするなんて。


いらいらと舌打ちをすると、兄のあきれたようなため息が聞こえた。



「詳しく聞きたいような、聞きたくないような、だけど。お前、仮にも年上なんだから、折れてやれよ」

「別に俺、折れなきゃならないようなこと、何もしてない」

「ケンカしたんじゃないの?」

「全然。むしろその逆」



仲よくしたら、神谷が離れていったのだ。

わけがわからない。

まったくもって、わけがわからない。


自分から無視しておいて、最近じゃ、ヤマトに対して怯えているようなそぶりすら見せる。


自分が始めたくせに! とヤマトは心中で毒づいた。

そんな態度とられたら、俺が悪いみたいじゃないか。


ヤマトは、ソースの更新をあきらめて、データの取得履歴を取り消し、修正前の状態に戻した。

こんな気分の時に、美しいソースは書けない。


思ったとおりに作業が運ばなかったことが、ヤマトのプライドを傷つけ、神経をささくれ立たせていた。

思いどおりにいかないのなんて、外交と神谷だけで十分だ。



「お前らが組むのも、あとちょっとだろ。何やってんだよ」

「神谷に言ってくれよ。俺は、好きで険悪にしてるわけじゃないよ」

「仲直りの隙も与えてあげてないんだろ」

「………」



大人げない、と暗に言われたようで、気まずく兄を見あげると、完全にバカにした視線とかちあった。



「かわいそうに、神谷ちゃん。俺、最終日、ランチに誘って慰めてあげよ」

「好きにすれば」



俺の秘書なのに、最終日に兄貴と昼飯かよ、と面白くない気分にもなったけれど。

とてもそんなことを言える立場じゃないことくらい、わかっていたので、黙る。



「ま、何も知らないふりしとくけどね。原因がどっちにあるにせよ、お前が動くべきだと思うよ」



男だろ、と言い残して去る兄の背中を、恨めしく見つめる。

それを言われると、弱い。
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