副社長は溺愛御曹司
ヤマトの家では、男は女性に優しく、が家訓のようなもので。

とにかく女性を守り、喜ばせ、いい気持ちにさせるのが男の使命、と、兄弟三人とも、幼い頃から叩きこまれてきた。


小さい頃は、母のような女性のどこに、守るべき要素があるのか疑問だったけれど。

男が弱体化した結果があれだ、と父に説明されると、なるほどそうかと納得しないわけにはいかず。

男が男らしくあれば、女性も女性らしくあれるのだと、子供心に理解したものだった。


その教育のおかげで、男であることを持ち出されると、無条件に頑張ってしまう自分がいる。

だけど、今回は、ダメだ。

なんたって、神谷の態度の理由が、さっぱりわからないのだ。

折れようにも、折れるポイントが見つからない。

なにより、折れたくない。


だって、神谷が悪い。

何度思い返してみても、自分の何が神谷の気に障ったのか、見当がつかない。

しいて考えるなら、その場の勢いで寝ちゃったけど、後悔してるのかなあ、くらいで。

それですら、ヤマトにあんな態度をとる理由になるとは、とても思えない。


好きだって言ってくれたのは、なんだったんだよ。

神谷のバカ。


もう何日、まともに口をきいていないだろう。

ふとデスクトップのカレンダーを見て、一週間以上その状態だったことに、愕然とした。

笑った顔も、見ていない。

大好きなのに。

あの、にこっと笑うのが、可愛くて、いつだって安心させてくれて、気に入ってるのに。


神谷が書いた、今朝の役員会の議事録に、誤りがないか目を通していると、ノックの音がして、濱中が顔を見せた。



「お先に失礼いたします。何か、ございますか」



ほおづえをついてPCに向かっていたヤマトは、目だけ上げて、首を振る。

姿形だけは、ちょっと神谷に似ている、新しい秘書。


全然違うよ、木戸さん、と自分の眉が寄るのを感じた。

神谷の声はもっと、押しつけがましくなくて。

神谷の笑顔はもっと、親しみやすい。

神谷の仕草はもっと、手を貸してやりたくなるような幼さがあって。

神谷の手はもっと。


もっと。




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