副社長は溺愛御曹司
「まだ残暑って感じなのに、年末なんて実感ないですね」
「ほんと、10月に入っても、いっこうに寒くならないね」
暖冬なのかな、と社長づきの和華(わか)さんが首をひねる。
久良子さんよりひとつ下の、ショートへアが逆に女らしい、これまたすごい美人だ。
「冷夏でしたもんね」
「お米がとれなくて、農家の人、困っちゃうね」
秋田美人の久良子さんが、らしいコメントを発した。
「かーみやちゃん」
軽い、とつぶやきたくなるような呼び声と共に、背の高い姿がガラスを回って入ってきた。
「これ、第4稿。ヤマトに渡しといてくれるかな。その後、杉さんに回覧ね」
「今、お部屋にいらっしゃるはずですよ、お呼びしましょうか」
「ちょっとのぞいたけど、いなかったよ?」
え。
そんなバカな。
私はお昼からヤマトさんが戻って以降、ここにずっといたし、その間、彼が廊下に姿を現したことはなかった。
そこで、はっと思い出した。
私、一度お手洗いに行ってる。
まさかその隙を狙ったわけじゃないだろうけど、たまたまその間に出てったんだ。
けど、どこへ、何をしに。
そこに、エレベーターのチンというベルに続いて、パタパタと軽快に駆ける足音が聞こえてきた。
延大さんが、おいヤマト、と声をかけると、その勢いのまま秘書室に駆けこんでくる。