トールサイズ女子の恋【改稿】
◆第10章:叶わない想いでも、背中を押してくれた
 接待の部屋に戻ってからは何もなかったように振る舞い、やがて接待がお開きとなったので、私たちは青木印刷会社の方をお見送りするために料亭の玄関に並ぶと、料亭の前にはタクシーが停まっていて後部座席のドアが開かれていた。

「本日はお忙しい中、ありがとうございました。皆さんにお会い出来て、とても嬉しかったです」
「此方も星野さんに会えて懐かしかった、また会おう」
「はい」

 タクシーが青木印刷会社の人たちを乗せて暗闇の中に消えていくと、高坂専務は腕を空に向けて伸びをする。

「さーて接待は終わりだね、皆お疲れさん。俺は別の所に行くから、車の手配を頼む」
「はい」

 秘書がスマホでタクシーを呼び寄せて料亭の前で停まり、後部座席のドアが開かれると高坂専務は乗らずにいる。

「課長、星野さんを連れていくけどいいかな?」
「分かりました。星野さん、飲まされないように気をつけてね」
「はい、お先に失礼します」

 私は課長の方を振り向いて頭を下げてタクシーの後部座席に乗り込むと、高坂専務も乗った。

「T都S区3の15まで」
「かしこまりました」

 高坂専務はシートベルトをつけて目的地の住所を運転手に告げると、タクシーは静かに発進して料亭から離れていった。

「秘書の人は一緒じゃないんですか?」
「今からプライベートな時間だから、ついてこられたら気が休まらないよ」

 やがてタクシーが指定した住所に到着したので降りたけど、何処かでみたような通りだなと思って周りをキョロキョロとする。

「星野さん、こっちだよ」

 高坂専務の後に着いていくと見たことのある看板が見えてきたので、もしかして行こうとしてるのはあのお店かな?
< 74 / 162 >

この作品をシェア

pagetop