キスマーク
寿退社―…結婚か、
確かに私もそろそろ落ち着きたいけど、麻里を見るとまだまだ意気込みが足りないのかな、なんて思ったり。
でも、この秘書課に居れば、年齢を重ねると共に結婚への意識が高くなるのもわからなくはない。私が勤める商社の秘書課は、みんな大体三十歳前後で寿退社していく。
大手企業のメンズ相手での合コンや、役員のおじさまたちの仲介でお見合いをして結婚相手をみつけたり。勿論、社内恋愛から結婚もアリ。
みんな好条件の相手を捉まえるから、わざわざ産休をとって復帰するコはいない。
例外は秘書課の主任である西沢主任くらい。
“結婚、ね……”
着替えを終えた私は更衣室を出て、ぽつりと心の中で“結婚”というワードを頭に浮かべながら秘書室へと歩く。
ふと、浮かんできた人物は、昨日抱き合ったヒロ。
身体は許せても結婚はないな、と思う。
まぁ、あっちも私と結婚だ何て微塵も思っていないと思うけど―…
と、考えた瞬間、
「……!」
はっ、として、思わず首筋を押さえてしまう。
キスマーク……!
更衣室で誰にも見られていない、よね?と、今さら不安になってしまう。でも、あの麻里が何も突っ込んでこなかったんだから、気付かれていないよね、なんて都合よく解釈したり。