「同じ空の下で…」

嬉しい気持ちと同時に、切ない気持ちを覚えてしまった私は、

すぐさま瞬に逢いたくなって仕方なくなる。

[To:岡崎 瞬]

[text:同じ雲、私も見てたよ。あっと言う間に消えて残念だったよね。会議室から見てた。]

そう返信すると、またロッカールームへと歩いた。


瞬から返事は来ること無かった。


昼休みが過ぎ、午後の仕事が始まって常務が戻って来ても、隣に高梨が居る事も無く平穏に仕事をこなして行く。

そして午後の仕事は、無事に定時を迎え帰宅の途についたのだった。


夕食の支度をして、テーブルに一人分の食事を並べて、テレビを見ながら、夕食を嗜む。

お風呂に湯を張り、ゆっくりと湯に身を沈めながら、今日起こった事を回想させ、常務室で高梨と唇が触れた事やほんの数秒抱きしめられた事を思い出し、そのまま頭まで潜った。

…考えたくない。

無かった事にしたい記憶だ。

湯から頭を出して、がむしゃらにシャンプーをして、なんとかかき消そうとするけど…


そんなに簡単なら、人は過去を背負って生きる事などする必要はないのである。


髪の毛をタオルドライしながら、脱衣所から出た頃、インターフォンが部屋に鳴り響いた。

モニターで確認すると、映し出されたのは、瞬の姿だった。



驚いて、すぐに開錠し玄関のドアを開けると、無言で私の目をしっかりと捉える瞬が立って居た。


その瞳は、すっかり疲れ果てているようにも見え、かける言葉を必死に探した。


「…悪い、急に来て…」

「ううん、いいよ。…上がって?散らかってるけど…」


そう答えたと同時に、瞬は私に抱きついた。

いきなり抱きつかれて、足元がふらつき、私は少しよろめいた。


「…悪い…。ほんと…わるい…」



涙声の瞬が、顔を埋めてうわごとの様に…呟いた。


泣いているのがすぐ分かってしまって、私は瞬の頭を撫でるのが精一杯だった。







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