「同じ空の下で…」
「…実は、今日、兄貴が…じいちゃんの火葬に現れた。」
「お兄ちゃんが?」
瞬のお兄ちゃん…────。
失踪していた、歳の離れたお兄ちゃん…の事だった。
「…すっかり、あの時と変わって無くて…腹が立った。もう少しで殴りかかりそうになったけど、火葬の前だったし…多分、じいちゃんが、俺の気持ちにブレーキかけてくれたんだな、きっと…。」
「…そう…。」
照れくさそうに笑う瞬。
「艶香の顔みたら、ヤバかったな。涙腺とかなんとかが、一気に緩んだし…。張りつめていた何かが切れたような感じ?…そもそも、何で艶香のとこに来たのか…わかんねぇな、俺。」
「…どうやって、…ここまで?」
「…分かんねぇ…。火葬の後、家ん中に兄貴がごく自然に居て、お袋が泣いてて、親父は何も言わなくて、姉貴も目を潤ませて、微動だにせずに立ち尽くしていて…その光景が…なんかすんげぇ普通に見えて…。家の中に居る兄貴が…馴染み過ぎてて…」
「…うん…。」
「俺の居場所が無い気がして、そのままフラリと家を出て来た…感じ。『ただいま』って、昔と変わらない顔で、俺らに頭を下げて…。」
「…う…ん…。」
「何年も音沙汰なくっても、あいつは…歓迎されるんだな…。」
寂しそうに視線を落とす瞬の伏し目がちなまつ毛には、さっきまでの滴が、照明に照らされてキラキラと光っていた。
「…辛かったね…、瞬…。」