不誠実な恋
あたしの人生を左右するほどに衝撃的な事件が起こったあの日。
肌寒さにブレザー越しの右腕をグッと抱きかかえ、未だ蕾の一つもついていない殺風景な桜並木を窓からぼんやりと眺めていた。
高校生活が終わる寂しさよりも新しく迎える大学生活への期待に心を躍らせている親友を視界の隅に映し、「いつ咲くだろうか」とまだひんやりと残る冬の空気の中で桜の開花予想などという全くもって卒業とは関係のないことを考えながら。
「メイ」
「んー?」
「ねぇ、メイってば」
何度名を呼んでも心此処に在らずの返事をするあたしに苛立ったミチルが開け放たれた窓から身を乗り出して大きく手を振った瞬間、咄嗟に「危ない!」とその体を引き寄せた。
何てことをするのだろう。と、憤りを押し殺して仕方なく向き合ったあたしに満面の笑みを見せ、ミチルはこの三年間で使い古された感の出てしまった一冊のノートを鞄から取り出してまた微笑んだ。
「出た。メガネノート」
「もうそろそろこれともお別れかなぁ」
「んなことはないと思うよ、あたしは」
「どうしてぇ?」
「だって、メガネもここの大学進むんやろ?せやったらまた一緒やん」
呆れた顔をして頬杖をつくあたしに苦笑いを零し、さっきまで上機嫌で浮かれていた親友は「メガネノート」とあたしが勝手に名付けた分厚い手垢まみれのノートを机の上に置いて祈るように手を合わせた。
「何拝んでんの?」
「上手くいきますように。って」
「何が?」
「告白」
もうかれこれ五年以上も想い続けているらしいミチルの想い人は、幸か不幸かあたしの付き合って二年になる彼氏の親友…いや、悪友だった。
何とか想い人の気を引こうと努力を重ねる彼女を見て、「お前もあれくらい努力してみろよ」と何度か彼が溜息混じりに苦笑いを零していたことがある。
一途に唯一人だけを想い続けるミチルの姿は女としてはとても羨ましく、親友としてはとても痛々しかった。
「やっと、ですか」
「そう。やっと、ね」
「それはそれは。ご健闘を…」
同じ様に手を合わせ、ノートに向かって何の効力も無さげなおまじないをかけてみる。
これこそが恋愛の醍醐味。そんな冷静さがあったからこそ、親友の恋焦がれる王子様との恋の行く末を予想していてもただじっと黙っていた。
窓の外でじゃれ合っている自分の彼氏とその王子様の姿を横目に見ながら。
肌寒さにブレザー越しの右腕をグッと抱きかかえ、未だ蕾の一つもついていない殺風景な桜並木を窓からぼんやりと眺めていた。
高校生活が終わる寂しさよりも新しく迎える大学生活への期待に心を躍らせている親友を視界の隅に映し、「いつ咲くだろうか」とまだひんやりと残る冬の空気の中で桜の開花予想などという全くもって卒業とは関係のないことを考えながら。
「メイ」
「んー?」
「ねぇ、メイってば」
何度名を呼んでも心此処に在らずの返事をするあたしに苛立ったミチルが開け放たれた窓から身を乗り出して大きく手を振った瞬間、咄嗟に「危ない!」とその体を引き寄せた。
何てことをするのだろう。と、憤りを押し殺して仕方なく向き合ったあたしに満面の笑みを見せ、ミチルはこの三年間で使い古された感の出てしまった一冊のノートを鞄から取り出してまた微笑んだ。
「出た。メガネノート」
「もうそろそろこれともお別れかなぁ」
「んなことはないと思うよ、あたしは」
「どうしてぇ?」
「だって、メガネもここの大学進むんやろ?せやったらまた一緒やん」
呆れた顔をして頬杖をつくあたしに苦笑いを零し、さっきまで上機嫌で浮かれていた親友は「メガネノート」とあたしが勝手に名付けた分厚い手垢まみれのノートを机の上に置いて祈るように手を合わせた。
「何拝んでんの?」
「上手くいきますように。って」
「何が?」
「告白」
もうかれこれ五年以上も想い続けているらしいミチルの想い人は、幸か不幸かあたしの付き合って二年になる彼氏の親友…いや、悪友だった。
何とか想い人の気を引こうと努力を重ねる彼女を見て、「お前もあれくらい努力してみろよ」と何度か彼が溜息混じりに苦笑いを零していたことがある。
一途に唯一人だけを想い続けるミチルの姿は女としてはとても羨ましく、親友としてはとても痛々しかった。
「やっと、ですか」
「そう。やっと、ね」
「それはそれは。ご健闘を…」
同じ様に手を合わせ、ノートに向かって何の効力も無さげなおまじないをかけてみる。
これこそが恋愛の醍醐味。そんな冷静さがあったからこそ、親友の恋焦がれる王子様との恋の行く末を予想していてもただじっと黙っていた。
窓の外でじゃれ合っている自分の彼氏とその王子様の姿を横目に見ながら。