不誠実な恋
卒業証書を受け取るために次々と呼ばれていく名前は、半数以上が知らない名前。これだけ大きな学校となればそれも致し方ない事なのだろうけれど、さすがに自分のクラスに聞き慣れない名前があると驚いた。
「なぁ、ミチル。サクマって…誰?」
こっそり話し掛けるあたしにミチルは目を丸く見開き、グッと眉を顰めて呆れたようにプッと噴き出した。
「侑士君だよ」
「へぇ。あのメガネ、「さくま ゆうし」ってゆうんや」
「知らないクラスメイトも如何かと思うよ」
「そりゃそうだ」
確かにそれは的確なツッコミで。何故今まで気付かなかったのだろうかと思うほどに、あたしは侑士に興味が無かった。
ミチルや朔也と話しているとよく話題にはなっていたけれど、二人共が「侑士」と呼んでしまうものだから、あたしもつられてそう呼んでいた。
本人と会話をしてもそれ然り。
彼氏の親友であり、親友の想い人である人。
その固定観念以外な何も無く、恋愛感情は元より好き嫌いの感情でさえも感じたことはなかった。
そう、この時までは。
「李 美雨」
「はい」
小さく返事をして立ち上がったあたしを振り返り、早々に名前を呼ばれて証書を受け取った朔也がその筒をちらつかせながらニヤリと笑みを見せた。
何か企んでいる。そうは思っていても、もう立ち上がって足を進めてしまっていたものだから引き返すに引き返せない。
そんなあたしの不安を余所に、その視線は突き刺すようにあたしの背中を見つめていた。それが痛い。けれども嬉しい。
そう、確かにあたしはこの時朔也のことが好きだった。
俺様で口の悪い男だけれど、それでもあたしに充分過ぎるくらいの愛情は注いでいてくれたし、校内の女生徒達に「朔也様」と呼ばれるほどの人気を誇るこの男を独り占めしている自分が誇らしかった。その想いに揺るぎは無く、ましてや誰かに掻き乱されることなど考えてもみなかった。
「なぁ、ミチル。サクマって…誰?」
こっそり話し掛けるあたしにミチルは目を丸く見開き、グッと眉を顰めて呆れたようにプッと噴き出した。
「侑士君だよ」
「へぇ。あのメガネ、「さくま ゆうし」ってゆうんや」
「知らないクラスメイトも如何かと思うよ」
「そりゃそうだ」
確かにそれは的確なツッコミで。何故今まで気付かなかったのだろうかと思うほどに、あたしは侑士に興味が無かった。
ミチルや朔也と話しているとよく話題にはなっていたけれど、二人共が「侑士」と呼んでしまうものだから、あたしもつられてそう呼んでいた。
本人と会話をしてもそれ然り。
彼氏の親友であり、親友の想い人である人。
その固定観念以外な何も無く、恋愛感情は元より好き嫌いの感情でさえも感じたことはなかった。
そう、この時までは。
「李 美雨」
「はい」
小さく返事をして立ち上がったあたしを振り返り、早々に名前を呼ばれて証書を受け取った朔也がその筒をちらつかせながらニヤリと笑みを見せた。
何か企んでいる。そうは思っていても、もう立ち上がって足を進めてしまっていたものだから引き返すに引き返せない。
そんなあたしの不安を余所に、その視線は突き刺すようにあたしの背中を見つめていた。それが痛い。けれども嬉しい。
そう、確かにあたしはこの時朔也のことが好きだった。
俺様で口の悪い男だけれど、それでもあたしに充分過ぎるくらいの愛情は注いでいてくれたし、校内の女生徒達に「朔也様」と呼ばれるほどの人気を誇るこの男を独り占めしている自分が誇らしかった。その想いに揺るぎは無く、ましてや誰かに掻き乱されることなど考えてもみなかった。