不誠実な恋
静まり返った式場は、扉越しでも充分に伝わってくる独特の神聖さであたし達を迎えてくれる。
その空気にたじろいでいたあたしの手をグッと握り、答辞の原稿が無事見つかってご機嫌麗しくなった帝王様は、雰囲気をブチ壊すという言葉などは一切頭に浮かべずに勢い良く式場の扉を押し開いた。
「遅くなって申し訳ありません」
「…ありません」
一礼して堂々と胸を張って花道を突き進む朔也に手を引かれたまま俯き加減でその後ろを歩くあたしは、横目でミチルの存在を確認してがっくりと肩を落とした。
たとえその成功率が0に近いくらいに低かったとしても、やはり自分の大好きな親友には成功して欲しいと思うもので。
未だ赤い眼も今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えている姿も、何もかもが痛々しい。
ほんの数年の付き合いだけれど、ミチルがどれほど侑士を想っているのかは散々聞かされてきたし、願わくばその想いが叶って欲しいと常々思っていた。
「ただいま」
「遅いよ、メイ」
「ごめん。これ終わったらお疲れ会しよっか?あのバカの奢りで」
あたしの左肩に寄り掛かってシクシクと泣き始めたミチルの肩を抱き、壇上で普段滅多に見ることの出来ない胡散臭い爽やかな笑みを見せる朔也を空いた右手で控えめに指す。
それに素直に頷いてくれる腕の中の親友は、あたしが見ている限りでは申し分の無いくらい魅力的な女の子。そんな親友の気持ちを知っていながら泣かせる侑士が許し難かった。
本当に申し訳ないのだけれど、ひと月も前から自分の彼氏が頭を悩ませていた答辞など、掻い摘んだ箇所しか聞いてはいなかった。しかも適当に。
それはそれで朔也自身は予想していただろうし、あたしもそうなるのではないかと思ってはいたけれど、さすがにやってのけてしまうとほんの少しだけ胸が痛む。
こんなことならば練習台にでも何でもなって式の前に聞いておいてあげるべきだったか。と、誰にも見えないところで少しだけ心根の優しい彼女のフリをしてみた。
その空気にたじろいでいたあたしの手をグッと握り、答辞の原稿が無事見つかってご機嫌麗しくなった帝王様は、雰囲気をブチ壊すという言葉などは一切頭に浮かべずに勢い良く式場の扉を押し開いた。
「遅くなって申し訳ありません」
「…ありません」
一礼して堂々と胸を張って花道を突き進む朔也に手を引かれたまま俯き加減でその後ろを歩くあたしは、横目でミチルの存在を確認してがっくりと肩を落とした。
たとえその成功率が0に近いくらいに低かったとしても、やはり自分の大好きな親友には成功して欲しいと思うもので。
未だ赤い眼も今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えている姿も、何もかもが痛々しい。
ほんの数年の付き合いだけれど、ミチルがどれほど侑士を想っているのかは散々聞かされてきたし、願わくばその想いが叶って欲しいと常々思っていた。
「ただいま」
「遅いよ、メイ」
「ごめん。これ終わったらお疲れ会しよっか?あのバカの奢りで」
あたしの左肩に寄り掛かってシクシクと泣き始めたミチルの肩を抱き、壇上で普段滅多に見ることの出来ない胡散臭い爽やかな笑みを見せる朔也を空いた右手で控えめに指す。
それに素直に頷いてくれる腕の中の親友は、あたしが見ている限りでは申し分の無いくらい魅力的な女の子。そんな親友の気持ちを知っていながら泣かせる侑士が許し難かった。
本当に申し訳ないのだけれど、ひと月も前から自分の彼氏が頭を悩ませていた答辞など、掻い摘んだ箇所しか聞いてはいなかった。しかも適当に。
それはそれで朔也自身は予想していただろうし、あたしもそうなるのではないかと思ってはいたけれど、さすがにやってのけてしまうとほんの少しだけ胸が痛む。
こんなことならば練習台にでも何でもなって式の前に聞いておいてあげるべきだったか。と、誰にも見えないところで少しだけ心根の優しい彼女のフリをしてみた。