猫 の 帰 る 城



街の中心部に足を進めるに従って、人の賑わいは増していく。
 
赤と緑の装飾がより華美になり、どこからかクリスマスソングも聴こえてくる。


ふと顔をあげると、目の前にファッションビルがそびえ立っていた。
小夜子とよく訪れたビルである。

買い物を目当てとせず、外壁にもたれて涼をとりながら、ただ街ゆく人々を眺めていた。

遠いようで鮮やかな、それでも確実に過去の映像だ。
あの頃はノースリーブのワンピースを着ていたマネキンが、今日はファーのついたコートを着ていた。


同じ場所に若い女性が立っていた。

僕らがもたれていた壁に寄り添うように、寒空の下、身体をわずかに上下させながら、あたりを見回している。

手袋の間から腕時計を確認し、再び顔をあげると、人ごみの中に男を見つけた。
男がそこから抜け出す前に、女が駆け寄り手をとる。


色で溢れた雑踏に、また新しい色が浮かぶ瞬間だ。

そんな色が、この街にはたくさん溢れていた。


ビルを眺めていた僕の前を、男女が手を繋ぎ、歩き去っていく。

女は、宝石店の名前が入った小さな紙袋を提げていた。
南国の透き通った浅海のような色。


しばらくと歩かないうちに、今度は小さな子供の手を引く男女とすれ違う。

死よりも生に近い、少女独特の艶やかな髪に、母親が優しく指を入れてやる。
その子が首に巻くのは、ポインセチアのように燃える真っ赤な色。

少女は両親に挟まれて、あどけない笑顔を見せていた。


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