猫 の 帰 る 城
「どうした」
僕も声を荒げていった。
耳元からは、かすれる声と小刻みに震える吐息が聞こえてくる。
明らかに小夜子の様子がおかしかった。
「なにがあった、小夜子」
問うてみたが、返事はなかった。
僕はあらゆる最悪なパターンを想像して身震いした。
恐ろしいことは、瞬時にいくつも思い浮かんでしまうものだ。
「小夜子、どうした」
「ごめんなさい。わたし…」
「何かあったのか」
「ごめんなさい…わたし、大丈夫だから、ごめんなさい。事故とかじゃないの」
「身体は大丈夫なのか」
「うん、大丈夫…ごめんなさい」
ようやく声が聞こえたが、震える吐息でよく聞き取れなかった。
かろうじて聞こえた大丈夫という言葉に、とりあえずは安心した。
それでも、彼女の声は変わらず切迫していた。
「ヒロト、会いたい」
今度ははっきりと聞こえた。
呼ばれた自分の名前が胸に突き刺さる。
「小夜子、今、どこにいるの」
「部屋にいる。お願いヒロト、早く来て」