猫 の 帰 る 城
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小夜子の家へ向かうタクシーの中、僕は真優にメールを打った。
先に約束をしていたのは真優だったが、僕にはどうしても小夜子を放っておくことができなかった。
泣いて自分の名前を叫ぶ彼女のところに行くべきだと思ったのだ。
約束を断る理由なんていくらでも作ることができたのに、僕は真っ白な画面をしばらく見つめていた。
文字にしてみるとどれも嘘くさく思えてしまうのだ。
結局、嘘をつくのは気が引けて、急用で行けなくなったとだけ打った。
メールを送信すると、僕はケータイの電源を切った。
いまは真優のことではなく、小夜子のことだけを考えていたかったのだ。