猫 の 帰 る 城




 *


小夜子の家へ向かうタクシーの中、僕は真優にメールを打った。

先に約束をしていたのは真優だったが、僕にはどうしても小夜子を放っておくことができなかった。
泣いて自分の名前を叫ぶ彼女のところに行くべきだと思ったのだ。


約束を断る理由なんていくらでも作ることができたのに、僕は真っ白な画面をしばらく見つめていた。
文字にしてみるとどれも嘘くさく思えてしまうのだ。


結局、嘘をつくのは気が引けて、急用で行けなくなったとだけ打った。
メールを送信すると、僕はケータイの電源を切った。


いまは真優のことではなく、小夜子のことだけを考えていたかったのだ。












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