猫 の 帰 る 城
僕を部屋に迎え入れた小夜子の顔に、涙はなかった。
それでも目のふちは赤く、先ほどまで泣いていたことはわかった。
唇に血色がない。
いつも誇らしげに赤く染まっていたそれは青く、震えていた。
「…ごめんなさい」
小夜子はうつむき、玄関に立ち尽くしていた。
見たことのないワンピースを着ていた。
女性の洋服について知識のない僕にでも、それは高価なものだとわかる。
胸元が開いたセクシーなワンピース。
着飾った小夜子は完璧だった。
「急に、呼び出してごめんなさい。ほんとは、あなたに電話したくなかったんだけど…」
涙で化粧が崩れてさえいなければ。
「…ヒロトしかいなくて」
小夜子はそう言って肩をすくめた。
それと同時に彼女の目から涙がこぼれ落ちた。