猫 の 帰 る 城



真優から突然のメールが入ったのはちょうど五限目の講義が中盤に差し掛かったころ。

つまらない講義をBGMに、うとうとしてきた矢先のことだった。
寝ぼけ眼でメールを開くと、思ってもいなかったお誘いが。


『今日会えるかな』


僕は一瞬、考えた。
浮気相手といえど、先に約束したのは小夜子だ。

もう一度冷静に考える。
やはり先約を断るわけにはいかない。


『今日は無理だ』


自分の選択に多少の罪悪感を抱きつつ、再び眠りの世界に落ちようとすると、再びメールが入った。
真優からだ。


『ちょっとだけでもだめかな』


僕は退屈な講義を前に初めて頭を抱えた。

これはどうすることが正解であるのかわからなかった。
この静まり返った講義室で挙手をし、つまらない話をだらだらとし続ける教授に解答を求めたかった。

どうすればいいのか…。


そこで欲求と罪悪感を天秤にかけてみた。
天秤にかけてみると、それは容易にわかった。

ショートパンツから伸びる脚に、罪悪感などかなうはずがなかったのだ。
小夜子とのディナーセックスというプランには勝てなかった。

僕は罪悪感を押し潰した。
先約は小夜子なのだ。
先約は久しぶりのセックス。


『ごめん。今度埋め合わせする』


僕の天秤は欲求に傾いた。
原因なんて、後で振り返ってみるとこんなものだ。

それが永遠に来ないとも知らずに。

僕は再び瞼を閉じた。










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