猫 の 帰 る 城


僕は立ち止まって動けなかった。
けれど僕の頭は驚異的な速度で動いていた。
なぜ、どうして、どうやって。
どう考えてもわからないことを。

真優が無表情のままゆっくりと近づいてきた。
見たこともないオフホワイトのワンピースを着た彼女が僕の目の前に立った。
背の小さな真優はしっかりと顔をあげて、背の高い僕を見上げている。
あまりにも彼女の瞳がまっすぐに僕を見つめてくるものだから、僕は決まり悪く視線を逸らした。


「…どうしてここにいるんだ」

心の底から疑問に思っていることを尋ねた。
真優は驚くほど冷静で、それがむしろ僕を安心させなかった。
おもむろに口を開く。


「悪かったと思ってる。一度、ヒロの後をつけたんだ。先週の金曜日、大学で待ち伏せして。どこに行くのか…知りたかったから」


僕は愕然とした。

愕然として、何も言えなかった。
…先週の金曜日?
確かにその日、僕は小夜子の家に泊まった。

いや、違う。

そんなことじゃない。
そんな事実ではない。
僕の後をつけてこの家の場所を知るためには、それ以前から真優は、僕に疑いを持っていたということになる。
後をつけるという行動をさせた、僕への疑心を。
それが先週の金曜日以前となると


「…いったい、いつから僕のこと疑ってたんだ」





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