猫 の 帰 る 城
「…ごめん」
心からの謝罪だった。
僕は思った。
こんな最低なやつに真優と付き合っている資格はない。
別れたほうがよいのではないか。
別れるべきなのではないか。
小夜子と僕の関係を知らない今なら、真優のダメージも少ないのではないか…
そんな偽善たっぷりなことを考えている僕に真優は言う。
『…実は、謝るのはあたしのほうなんだ』
その言葉を耳にすると同時に、僕は角を右に曲がった。
右に曲がると、小夜子のアパートがすぐそこに見える。
前方20メートル。
アパートの前で傘を差して立ち尽くす女性の姿も。
淡いブルーの傘。
その下にはショートカットの彼女。
…ベリーショートではなく。
僕は息を呑んだ。
いるはずのない、どう考えても何度考えてもいるはずのない、電話の相手がそこに立っていたからだ。
たぶん、彼女が僕に笑いかけていたりでもしたら、手に持ったビニール傘もケータイも落としていただろう。
「真優…」