猫 の 帰 る 城
小夜子がいなくなって、僕は毎日のように彼女の夢を見る。
夢の中の彼女は、あの夏のようにとびきりの笑顔を見せてくれる。
彼女は街なかで楽しそうに笑い、水中で僕を迎えてくれる。
見るのは夏の記憶を詰め込んだ夢だった。
手を伸ばせば柔らかな身体に触れることもできた。
だから僕は小夜子がどこにも行かないように、強く強く彼女を抱きしめた。
けれど、気づけば僕の腕から消えている。
ふっと消えたと思ったら、今度は目の前に涙を流す小夜子が現れる。
その顔は憎しみと苦痛に満ちていて、僕の胸に鋭い痛みが走る。
あの日僕が傷つけた、荒い呼吸を繰り返し、涙で頬を濡らす彼女だ。
彼女はそのまま、僕の手の届かないところへと去っていく。
どんなに手を伸ばしても、二度と触れることができない。
僕はそれを、ただ立ち尽くして見つめることしかできない。
いつも夢はそこで終わる。
目を覚ますと僕の身体からは汗が噴き出ていて、どうしようもない苦しみとやるせなさが、こころに重くのしかかっているのだ。