月下の幻影
「確かに我々はそうだが、俺は以前、殿から伺っている。幽霊でもいいからもう一度会いたいと」
胸の奥がチクリと痛んで、月海は塔矢から目を逸らした。
塔矢は懐かしむように目を細めて話を続けた。
「おまえも知ってるだろうが、殿は若い頃から頭は切れるし、腕は立つし、見てくれもあの通りかわいいから城内の女性陣にモテモテだったんだ。けど、ニブイ方でなぁ。少年のようにかわいい容姿をおもしろがられて、からかわれているとしかお思いにならない」
腕を組んで大袈裟にため息をつく塔矢を見て、月海は思わずクスリと笑う。
「自分のお気持ちさえ、俺が指摘するまでお気づきにならなかったほどニブイ方だ。何でもできて、大概のことは器用にこなすが、心は誰よりも不器用で、二度と会えない女を十年以上経っても変わらず想い続けている」
塔矢の話を聞きながら、月海の胸はズキズキと痛みを増してくる。
それでも和成の事を知りたい欲求の方が優り、月海は尋ねた。