あふれるほどの愛を君に
「どうかした?」
星野が見ている方向には、特に目に止める物も人もないように思われ訊いた。
「うーん。誰かに見られてるように感じたんだけど……気のせいだったかな」
そう言ってまた笑顔に戻る。
その言葉に僕ももう一度後ろを振り返ってみるが、それらしい人影はなかった。
「じゃあ、さっきの話頼むよ」
「うんっ」
通信教育のことを訊いてみようかと思ったのは、この前会った後からだった。
まだぼんやりとした思いではあるけど、なんとなく、興味とそこに繋がる希望みたいなものが浮かんでいた。まだ薄らとだけど。
そしたら、負に傾いていた気分も少しだけマシになったように思えた。
「じゃあ、またね阿久津君」
「仕事、頑張ってな」
その日、僕らはまだ明るい時間に別れた。
そしてひとりになった僕は、昨日までよりちょっと晴れた気持ちで街並みを眺め歩いた。
まだ未決定ではあるけれど、何かを始めようと考えられる思いは、一歩前に踏み出す原動力になるように思えて──
よし、と心の中で気合いを入れて、スニーカー履きの右足を前へ踏み出した。