あふれるほどの愛を君に
*・*


「悪いわねーハルオにこんなこと頼んで。サクラにも連絡したんだけど電話出なくて」

「いいですよ。ちょうど近くにいたんで」


星野と別れた帰り道、桃子さんから電話が入り呼び出された僕は、桃子さん宅の玄関にいた。


「おじゃましまーす」


靴を脱ぎ中へ入ると、キッチンに立つ桃子さんの旦那さんが振り返り、ニッコリと笑った。

もともと口数は少ないけど、いつもニコニコと温厚な実さん。エプロン姿がよく似合っている。


「はい、これ。サクラと分けてよ」


お腹をさすりながら歩いてきた桃子さんが、僕の前に大きな袋を置いた。

中身は、オレンジ色が鮮やかなミカン。まるで作り物みたいにピカピカと光ってる。


「それは甘夏よ。先月届いたのはデコポン、その前のがネーブルで更に前のはハルミとポンカン……っていっても、どうせキミ達には区別つかないだろうけど」


近くのリクライニングチェアに、ヨイショと体を預けた桃子さんが鼻先で笑った。

“キミ達”っていうのは、僕と実さんのことを指してるんだと思う。

キッチンの方を振り返ると、実さんがこっそりと肩をすくめてみせた。

< 103 / 156 >

この作品をシェア

pagetop