あふれるほどの愛を君に

実家からミカンが届いたから取りにきてほしい─それが呼び出された理由。

今日サクラさんは、短大の時の友達と出かけている。僕が札幌へ出張した時にも会っていた相手だ。


「それでモモさん、お義父さんの具合はどうだって?」


お茶を運んできた実さんが桃子さんに言った。


「ウメの話では、検査するからとりあえず今日は入院だって」


ウメというのは、実家でお父さんと二人で暮らしている桃子さんの双子の姉の梅代さんのこと。つまり、サクラさんのもう一人のお姉さんだ。


「お父さん、どうかしたんですか?」


黙って側で会話を聞いていた僕だけど、入院と聞いて桃子さんに訊ねた。


「今朝、家で倒れたらしいのよ」

「えっ、大丈夫なんですか?」

「もともと血圧が高くて、ウメの話ではいまは落ち着いてるらしいけど。サクラにも昼頃メールしたのに返事がないのよ」


サクラさん、メールが入ってること気づいてないのかな……。

手に持っていたスマホをタップして、さっきメッセージを送ったばかりのLINEのモニタを開いてみる。

でも、僕のところにも返事は届いていなかった。


「これからマンションに寄ってみますよ。えっと、甘夏を届けながら」


ふたりに見送られ、僕は桃子さん宅を後にした。

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