あふれるほどの愛を君に
外へ出て、左手のスマホを見つめる。
今朝出かける前に電話をかけた時は、心にモヤっとしたものがまだ広がっていた。星野に会っている時もそうだった。
だけど気づけば、そんな気分も少しは軽くなっている。
自分で思うより俺って単純なのかな……。やっぱりまだ子供だってことか。
自虐的な思いに苦笑がもれた。
「もしもし?」
「……はい」
六度目のコールの後に電話にでたサクラさん。
「桃子さん家の近くにいるんだけど今から寄ってもいい? ミカン預かったんだ」
ほんの少しの間を置いて、静かに応えた。
「あたしも今帰ってきたの。いいよ来ても」
***
部屋に入るとサクラさんは、顔をタオルで拭いながらキッチンへ入っていった。
メークを落としていたらしい。淡い水色の部屋着にお団子ヘアが可愛らしかった。
モコモコのタオル地のスリッパで歩く彼女を見つめながら、黒木さんのことで変に疑うのはやめようって思った。
完全に気持ちが晴れたわけではないけど、このまま疑い続けても何にも良いことなんてないはずだから。