あふれるほどの愛を君に

「ハルちんは聞いた?」


二杯目のビールを目の前のテーブルに置いたサトシが言った。

なにを? と聞き返してからジョッキに口をつける。


「ヤマちゃん、今度結婚するんだって」

「え、山本が?」


エプロンの小さなポケットに両手を突っ込んで立っているサトシが頷いた。

サトシも山本も高校の同級生で、二年連続で大学受験に失敗したサトシは、今は専門学校の二年生。
高校時代、バンド活動に明け暮れていた山本は、超難関といわれる国立大の医学部にストレートで合格し、来年からはアメリカへ留学すると聞いていた。


「大学の後輩とデキ婚だって。人生いろいろだな」


そう言ったサトシが、ふっと鼻先で笑ってから自嘲気味に続ける。


「俺らの年でさ、結婚なんて現実味がないっていうか、まだ考えられないよね」


そんな言葉に相槌も返事もせずに、ただ曖昧に頷いてみせた。

サトシが前に付き合っていた彼女と別れたのは、三ヶ月前のことだ。

確か別れた理由を、人生観の相違だと言っていた。結婚したがっていた年上の彼女との意見の食い違いだと……。

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