無題
『孤独なんて…思わないで…俺がいるよ…』
幸也!
私を後ろから抱きしめていたのは、大好きな幸也ではなく、怖い有川でした。
でも、そのぬくもりのおかげでふるえが止まった。
有川に両肩を持たれて、そのままどこかに連れていかれた。
意識が朦朧としていて記憶が全くなかった。
でも有川のぬくもりだけは、忘れることがなかった。
『そろそろおきなよ…』
目をあけた私の前に一枚の写真があった。
私のお母さんと私の小さい頃の写真だ。
お母さんと仲良く手をつないでいる。
この時は、楽しかった。
そういえば、出かける時はいつもお母さんと手をつないでいるか、お母さんの服の袖を握っているかのどっちかだった。
『今じゃ…こうだね。』
右手に握っていたもう一枚の写真をみせてくれた。
高校の入学式。私は、お母さんから離れていた。お母さんは、カメラをじっと見ているのに、私はふてくされた顔でカメラから目をそらしていた。
いつから距離が離れたんだろう…
お母さん…
涙が…また涙がこみあ……っえっ?
『また泣いちゃうの?』
有川の両手は、私の両目にそえた。