あの日、あの夜、プールサイドで


キッチンに入って目に入ったのはオヤジが好きだった焙じ茶。


煎茶よりもこの味わいが好みだったようで、生前は何かと焙じ茶を買い漁っていたように思う。


ーー最後だし、いいよな??


そう心で問いかけて、俺は親父の大好きだった焙じ茶の缶を手に取った。




缶を開けた瞬間、焙じ茶の香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。やかんに水を入れガスに火をつけると、少しだけ心が穏やかになってきた。




多分、これが真彩と会う最後だろう。




俺が自分のことを好きなんだと知ったら、真彩は絶対引くと思う。警戒するに違いない。


でも……好きになっちまったんだから、仕方ない。



恋愛なんて理性でするもんじゃない。オスの本能で、動物的なところで恋に落ちてしまうんだから、どうしようもない。



やかんで沸かしたお湯を急須に淹れて、しばらく蒸らす。いい色加減になったところで湯のみにお茶を入れ真彩のところへ持って行くと、真彩はダイニングテーブルの椅子にちょこんと座って俺をじっと待っていた。




そんな彼女がかわいくてクスッと笑うと


「ほれ、お茶。」

「あ、ありがとうございます。」


彼女の前に焙じ茶をポンと差し出す。


< 253 / 307 >

この作品をシェア

pagetop