ラブランディング

軋む日常

「ただいまー‥」

最近越してきたばかりのマンションは、前の私やユウの部屋より一段と明るく爽やかで、帰って来る度なんだか別のお宅にお邪魔してる気分になる。

「子供にはやっぱり、セキュリティちゃんとしたとこがいーよな」と、二人での新しい住まいを探す際に言っていたユウの言葉を思い出す。

決して押し付けがましくもなく、自分で意識してるのかも怪しいくらいに自然にそんなことを口にしてくれる。愛されてるな、という自覚。未来にはこの人がいる、という安心をくれる人だ。

ドアを開け中に入ると、鼻をくすぐるのはだし汁のいい匂い。私は足取りが少し軽くなるのを感じながら、キッチンへと向かった。

「よ、おかえりー」
「ただいま。キムチ味のさきいかってのがあったから買ってみた」
「おー、いいねー辛いもん食いたいと思ってたんだ」

啄むような軽いキスは、今では日課になってる。私は買ってきたビールやおつまみを片付け、またユウの周りをうろうろしだした。

ユウは料理が好きで、一緒に暮らすようになってから私が晩御飯を作ったのは指で数えられる程度。別にすごく凝ったものを作る、ってわけじゃないんだけど、食べるのが好きだからか味はシンプルながら美味しいし、どこか暖かい味がする。

うちの母親はあまり料理をする方じゃなかったから、他の人が作る手料理に対して余計にそう感じるのかもしれないけど。
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