ラブランディング

タイミングと運命と

「ふぁ…っ」

まだお昼にもなっていないのに、もうこれで何度目の欠伸だろう。

金曜日、ってだけでいつもよりダルい身体をひきずって出勤しているのだけど、いつもより夜更かしをしてしまったので余計に眠い。

そこまで思考がいくと、否応なく、思い出してしまう昨夜のこと。

うわ、うわわわ、っちょ、ダメだって!仕事中なのに!

邪念を振り払うように頭を抱えれば、溜息が出てしまう。これももう何度目だろう。こんなの、なんだか変態みたい…顔に出てないかな、と心配になる。

「どうしたんですか奈月さん、さっきから百面相」

そのゆったりとした声に顔を上げると、ミーティングから戻ってきた沖くんの姿。机にファイルを置けば、こちらを見ながら椅子に腰掛けていた。

…今、一番ツッコまれたくない相手なのに。

「別に、百面相なんてしてないけど」
「ミーティングルームからも見えてましたよ」
「嘘!」
「まぁ、奈月さんのことこんなに見てるのは俺だけでしょうけどね」

にっこりと、虫も殺さぬような顔で言われる。朝っぱらから飛ばしてるなぁ。もう既に慣れてしまったみたいで、そんな風に冷静に考えられるようになってるのは我ながら見事だと思う。

「もしかして、エッチなこと考えてたとか?」
「っへ…」
「え?」

あーっ、バカバカバカ!なんでそんなに素直に反応するかな!

うまくかわせばいいものを、あまりにも急にしかもド命中で言われてしまったものだから、思わず惚けた顔をしてしまった。絶対バレてる。だって、ものすごく楽しそうな顔してるもん。

「へぇ。俺がかっこよくミーティングしてるとこ見て、欲情しちゃいました?」
「っち、違う!沖くんじゃなくて、昨夜…ッ!」
「しっ」

ふと唇に触れる、骨太の手。

中性的な外見にしては、しっかりした手をしている。手で口を塞がれているこの異常な状況の中、ぼんやりとそう思った。

「ここ、デスクですよ」
「あ…」

また、ノセられちゃうとこだった…この子といると、本当にペースが崩れる。

「どうせだから、お昼一緒にしません?そこでゆっくり、昨夜のこと聞かせてもらいますから」
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