ラブランディング
「あぁ、あの時‥」

毎年オリエンテーションのリーダーを努めてるユウの手助けとして、私は去年から受付の仕事をかって出ていた。といっても、名前を書き取ってパンフレットやらを手渡すだけで、仕事といった仕事ではないのだけど、「今年はどんな奴が来るかなー」と楽しそうにしているユウを見るのが好きで手伝わせてもらっている。

そういえば、その時フルネームの書いてあるネームプレートつけてたっけ‥っていうか‥

「沖くん、すごい記憶力だね。そんなに話ししたわけでもないのに」
「綺麗な人の顔と名前は、忘れない主義なんです」

悪気も屈託もない顔で、しれっとそう言い放った。

彼の言った言葉を反芻するのに、少し時間がかかった。でもその間も沖くんはただ、その綺麗な顔で私を見つめる。

あぁ、お世辞か。それにやっと気付いたら、急に気恥ずかしくなった。

ユウと付き合うようになってから、こういう風に言われるようなことがなくなった気がする。社内では公認だし、合コンとかそういう異性との交流の場に出くわすようなことがないからだ。それだけで、こんなにも免疫がなくなってるなんて…こんな年下の子に「綺麗」って言われちゃっただけで、舞い上がっちゃうくらい。情けない…。

お世辞だとわかれば、対応の仕方は簡単だし、逆にこの美少年が親しみやすく感じる。なんだ、結構ノリのいい子なのかもしれない。ホっと胸を撫で下ろし、微笑みかける。

「あは、それはどーも。といっても、沖くんみたいに綺麗な子に言われてもねー。だって肌のツヤとか違うもん!若いっていいよねー」

そうおどけてみせる。池上さんといい、今年の後輩は可愛い子が多いなー。ユウじゃないけど、やっぱり新しい仲間が入るのは、楽しいし、色んな出会いがあるのはいいよね。

そんなことをのほほんと無防備に考えていたらから、沖くんの次の言葉が響いたのかもしれない。

「冗談交じりに言えば、俺の言ったこと、逸らせると思ってるんですか?」
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