ラブランディング
それは、さっきまでの物腰柔らかい言い方じゃなくて…ワントーン低い、どこか挑戦的、とも取れるもの。どうしてか、背筋にゾク、と冷たい空気が流れたような感覚になる。怖い、とまで思った。こんな年下の子に。

「え…っちょ、それって…」
「失礼します」

あまりに急なその言葉にとらわれて、私達の背後の気配にも気付かなかった。そこには、庶務課の女の子がどこか緊張したおもむきで立っていた。

「あの、沖くんのデスクの備品、お持ちしました」
「あぁちょうどよかった。今お願いしようと思ってたところなの」

名前は覚えていないけど、確か私より一つ下の後輩の子だ。よくこのフロアに来てくれるから、顔には見覚えがある。彼女はニッコリと笑って、蛍光ペンやノートの入ったトレイを沖くんに手渡す。

その様子は、まるで好きな人に差し上げを届ける女子高生みたい。

「お、沖くん、どうぞ!」
「どうも、わざわざありがとうございます」

あーあ、目がすっかりハートになっちゃってる。そりゃ、あんな顔で微笑みかけられたらねぇ。どこか、二人を見守るおばちゃんみたいな思考。若いっていいねー、って、お茶をすすりたくなるくらい。

そんなことを考えていたら、沖くんと目が合った。そして、忘れそうになってしまったあの挑戦的な、「男」の表情を見せられる。ドキっとしてしまった。

庶務課の子が顔を赤らめたままフロアを去るのを見送って、再度彼の方を向く。さっきの言葉は、放っておいちゃいけない。本能的に、そう思った。
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