たとえ愛なんてなかったとしても
「僕自身も今回のような大事になってしまって......とても困惑しています。

また......、世間をお騒がせしてしまって、大変申し訳なく思っています」



一人の記者から現在の心境を聞かれたので、芝居がかった口調にならないように気を付けながら話す。

真剣さが伝わるように、悲痛な表情で、ときおり声をつまらせながら。


どんな気持ちかって?
少なくとも、気分良くはいられないだろうな。


自分が同じ立場だったら、どう思うか考えてみろよ。



「ご自分が養子だということはご存知だったんですか?
実のご両親とは以前からご交流が?」


「自分が養子だとは幼い頃から知っていました。

生みの親とは今回の騒ぎになる少し前に再会した以外は、養子に出されてからは一度も会っていません」



そんなこといちいち俺に聞かなくても、もうとっくに情報出てるだろ。

俺が情報出さなくたって、あいつらが勝手にたれ流してるんだから。


悲痛な表情とは裏腹に、心の中では記者に毒づく。


次から次へと質問が飛び交う記者たちの顔を見ていると、本当にイキイキしていて、そんなに人の不幸が楽しいかと呆れるばかりだ。
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