俺の事どう思ってる?!
「ふ~、あと袖と裾にレースを付けたら難関の刺繍か」



 青いロングドレスを作り続けている。



 作業は進めなければ学年展には間に合わない、小物作りには全く手を出さずに担当を待ち続けている。



「手伝うよ」



 手の空いた夢人は、スカートの蝶の刺繍を銀の糸で縫いはじめた。



 手を休めるとあの日の舞奈の涙を耐えている顔が浮かび、村田を傷つけたい衝動が止まらなくなる。



「あと少しだから…」



 夢人は手を止めレースを縫い付けている紫江を見たが、紫江は顔を上げなかった。



 明らかにこの作業に対しての「少し」ではない。



 刺繍を始めたばかりだし、レースの縫い付けだって片袖しか終わっていない。今の言葉は、夢人が昨日まで気になっていた事が関係している。



「ねぇ、紫江…」



 紫江が返事をしようとした時に、紫江の携帯が机の上で震えた。相手は香からで簡潔だが、最悪の状況を知らせるメールだった。



 夢人に黙って見せると、何も言わず夢人は実習室を出て行った。





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受信トレイ

08/06/20 15:20

sub 無題

正門に弥生さんが来てる

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 後を追うように紫江も正門へ向この2人には話した。



 肝心の弥生には何も話していなかった。舞奈自身が話した方が良いと、唯一連絡先を知っている香は何も話さないでいた。



 目の前に弥生がいるという事は、舞奈は何も話していない事を指しているし、弥生の表情からも理解出来た。



 香は舞奈を悲しませてでも、弥生に話すべきだったと今起きている最悪の状況に後悔した。



「舞奈バイト行ったよね?」



 直ぐに核心に入った事に驚いた。そして変わらない冷たい表情に体が動かなくなった。



「舞奈を追求するのは、もう少し待って下さい」



 紫江は深く頭を下げると続けて夢人も頭を下げた。



 敵対している人に頭を下げるなんて屈辱だが、舞奈を助けるにはこの手しかなかった。



 しかし、何も知らない弥生はただ見ているだけで、思いは伝わらなかった。それどころか更にキツイ口調で紫江に質問を投げた。



「もう少しって、どの位」



 長身の弥生は紫江を見下して見えた。



 高圧的な口調、態度を浴びせられ顔が上げられなくなり、唇を噛む紫江だが拳に力を入れて弥生を真っすぐ見た。



「明日まで待って下さい」
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