聴かせて、天辺の青
本当は寄る所なんてない。
おばちゃんには悪いけど、30分ぐらい時間を潰せたらいいかな。
少し遠回りして帰ろう。
向かったのは国道沿いにあるスーパー、道の駅からは自転車で10分もかからない。この辺りでは比較的大きくて、食品や生活用品なら揃っている。
特に買うものはないけど、ぶらりと散策。
すると、聞き慣れた声がする。耳を澄ませて、きょろきょろ見回していたら陳列棚の向こう側からのようだ。
「ダメよ、お菓子は一日ひとつって決めてるんだから」
このハキハキした声は河村さんだ。
今日は休みだったから、お子さんと買い物に来てるのかな? と、陳列棚の向こうを覗こうとして足を止めた。
「ちょっとぐらいいよ、成長期なんだから好きなだけ食べさせてあげなよ、よしっ、パパが買ってやる」
はっきりと『パパ』と言った男性の声に、聞き覚えはない。河村さんの旦那さんに会ったことはないんだから当然だ。
ドキドキしながら顔を覗かせる。河村さんの旦那さんって、どんな人なんだろう。
姿を確認する前に、河村さんと目が合った。「あっ」と互いに声を発すると同時に、旦那さんと娘さんが振り返る。
慌てて頭を下げた。