聴かせて、天辺の青
私たちの会話に早くも退屈してきた小花ちゃんが、再びピアノを弾き始める。覚束ない手つきで、鍵盤をひとつずつ確かめる真剣な目がかわいい。
「うん、細いから柔道は似合わなさそうだね、いつぐらいまで習ってたの? どれぐらい弾けるの?」
細いだなんて、ずばっと言えるのは紗弓ちゃんだから。彼にピアノのことを聞きたくて仕方ないのは、小花ちゃんが習い始めたからだろう。
期待の目で見つめる先、彼がためらうように唇を噛んだ。恥ずかしそうに。
そんな彼の顔を覗き込んで、
「私は中学の時にやめたの、高校受験があったから、っていうのは口実で本当は飽きたし、私には才能がないと思ったから」
と、紗弓ちゃんは自分のことを暴露した。本当は彼の答えを聞き出したいのだ。
「最近までしてたけど、あまり得意ではないよ。俺も才能はないから」
彼が、ふと笑った。
寂しそうな目を細めて。
「才能なんて、わからないよね……気づくか気づかないかの問題じゃないと思うんだよね、天才なんて自身の素質だけじゃなくて、運もあると思うんだ」
彼の表情の変化に気づいたのか、紗弓ちゃんがしみじみと言う。
本当は知っている。
紗弓ちゃんはピアノを続けたかった。だけど、諦めたことを。