聴かせて、天辺の青


もう、涙は出なかった。


何も言わないけど、ぎゅうと握り締めてくれてる彼の手の力は変わらない。それだけで安心できてしまうのが、自分でも不思議に思えた。


だけど、気持ちが楽になったことは確か。言ってしまったことで、過去に囚われていた気持ちがずいぶんと軽くなった。少しずつ前に進めそうな自信さえ芽生えている。


「ありがとう、話したらすっきりしたよ」


笑って見せると、彼は口角を上げて頷いた。


頷き返した私の耳に届いた微かな振動。気づいた彼が、私の傍に置いたバッグを覗き込む。


「電話?」


ぱっと彼の手が離れる。
正直なところ、もう少し支えていてほしかった。と思いながらも、覚束ない手で携帯電話を取り出す。紗弓ちゃんからの着信だ。


電話してる間、彼は窓の外を見ていた。次は自分が打ち明ける番だと意識しているのか、テーブルの上に置いた手を何度も組み直しながら。


電話を切ると、ちらりと見上げた。


「紗弓ちゃんから、小花ちゃんが海棠さんにピアノを教えてほしいって言ってるみたい。そろそろ帰ろう」


私が言い終えるのと同時に、彼は明らかにほっとした顔をしていた。




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