聴かせて、天辺の青
「瑞香ちゃんのご両親は仲良しだから、休みになったら旅行したりしてるでしょ、うちはお母さんひとりだから、やっぱり心配だよ」
紗弓ちゃんの言うように、これから先のことを考えると不安になる。
民宿をしている時期は人の出入りがあって慌ただしくも賑やかだけど、時期を過ぎると酒屋の仕事だけ。日中は近所の健さんが店を手伝いに来てくれてるけど、ひとりの時間は増えるばかり。
「きっと英司だって考えてくれてるはずだよ」
そう思いたい。
願いを言葉にした。
「ありがとうね、瑞香ちゃんが来てくれて本当に助かってるよ。英司が戻ってきて、瑞香ちゃんとよりを戻してくれたらいいのに」
紗弓ちゃんが口走った言葉に驚いて、目が泳いでしまう。泳がせながら彼に聴こえていないか、無意識のうちに確認までしてしまってた。
いつか言われるような気はしていたけど。
「ごめん、それは……」
「ううん、私こそごめんね。昔から瑞香ちゃんは妹みたいな存在だから、そうだったらいいなあと思ってね。だけど、ずっと妹には変わらないよ」
ふわりと微笑む紗弓ちゃんの表情は寂しそうだけど、余裕が窺える。落ち着いた母親的な柔らかさに満ちて。
紗弓ちゃんにも私にも、英司にも英司のお母さんにも願いはある。もちろん彼にも。
すべての願いが叶えばいいのに。