聴かせて、天辺の青


「うん、全然。お正月に帰って来た時にメールくれたけど、会ってないし」


声を潜めて、ちらりと彼を見た。
小花ちゃんとピアノに向かう彼には、私たちの声など聴こえていないらしい。


それよりも、彼から視線を逸らすことができない。ほんの少しだけ見るつもりだったのに、すぐに目を逸らすつもりだったのに。


あんなに穏やかな顔ができるんだ。
見惚れてしまいそうになる。


「英司、どういうつもりなんだろう。今度の連休も帰らないって言ってたし、最近は何考えてるのかわからないよ」


私の視線を離してくれたのは紗弓ちゃん。不満げに口を尖らせて怒りを露わにするけど、小花ちゃんを見つめる目は優しい。


ただ、私は彼から外した視線をどこに注げばいいのか。紗弓ちゃんに気づかれなかったのか気になって、不自然に泳がせていた視線を自分の膝へと落とした。


「仕事が忙しいから、仕方ないよ」


考えるまでもなく、ぽろりと言葉が零れる。


答えてしまってから思った。
もっともらしい答えだと。


「英司は勝手だよ、卒業したら地元に就職するって言ってたくせに、結局は東京で決めちゃうし、お母さんのことを気にしてくれてもいいのに、ねえ?」


そういえば、そんなことも言ってた。


もう、傷は痛まない。



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