聴かせて、天辺の青


「瑞香は失礼だよなあ、塵取りなんて言うなよ、あれはあれで良かったんだ。どう? 前より乗り心地が良くなっただろ?」

「うん、ガツンと跳ねない気がする。やっと車内でコーヒーとか飲めそうだね」

「ああ、余裕だよ」


前方の信号が黄色から赤色が変わり、海斗がリズミカルな脚の動きで車を停める。流れるようにシフトレバーを操作した左手を挙げて、くいと親指を立てた。


きゅっと結んだ口元には笑み。痛々しいけれど、いい感じ。
機嫌が良くなってる。
そろそろ聞けそう?


「何かあったの? 車内で飲み物を飲みたいからって替えた訳じゃないでしょう?」


ああ、だめだ。こんな聞き方じゃ伝わらないかも。


もっとストレートに聞くべきだったかもしれない。海斗に何がいいたいのかわかってもらえるかな?
言ってしまってから後悔が込み上げる。


「まあ、そんなところ。俺もいい年だから、そろそろ落ち着かなきゃなぁ……と思っただけ。わかる?」


と言って、震えるシフトレバーへと手を伸ばした。信号が青に変わり、緩やかに車が走り出す。


河村さんの家はこの県道の三つ目の交差点を曲がった先、山沿いの住宅地の中にある。着くまでに、ちゃんと聞いておかなくちゃ。


< 210 / 437 >

この作品をシェア

pagetop