聴かせて、天辺の青


とんと背中を押してくれたのは、焦りの気持ち。海斗の横顔を見据えた。


「落ち着くって、河村さんと? 海斗、本気で河村さんと付き合ってるの?」


海斗は口を噤んで、前を向いたまま。
流れに沿って走る車のエンジン音が、心地よい振動を伴って車内へと響いてくる。


やっと尋ねることができたけど、安堵なんて感じない。焦りの代わりに胸の中を満たしていくのは、答えを待つ不安。


海斗は、何と答えるつもりだろう。


否定するのか、惚けるのか。
それとも認めてしまうのだろうか。


振り向いた海斗は真剣で優しい目をして私を見つめて、再び前へと向き直る。


「本気だよ、俺は本気だから」


体の芯に沁み込んでいく低い声。
海斗は嘘を言ってない。本気で河村さんのことを思ってる。


だけど、そのまま聞き流せるようなことじゃない。海斗の気持ちは本物だとしても、決して抱いてはいけない気持ちなのだから。


「でも、河村さんには旦那さんもいるし、娘さんだっている。知ってるでしょ? 家庭がある人なんだから、本気で付き合えるような人じゃないのよ?」

「もちろん知ってる。俺は本気だし、彼女も俺のことを受け入れてくれた」


河村さんもどうかしてる。旦那さんも娘さんもいるのに、海斗の気持ちを受け入れてしまうなんて。




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