聴かせて、天辺の青

ドアを開けたら胸ぐらいの高さの柵と、向こうには穏やかな海原。ドアを締めて振り向くと、事務所の壁沿いのベンチに彼が腰を下ろしている。



「よかった……」



目を丸くする彼の顔を見たら、一気に胸が軽くなった。ふいと口を尖らせて、いつもの彼に戻ってるように思えて。



「何しに来た?」
「大丈夫なのか、気になったから」



問いかけた彼の声も、彼らしい。
そう思って安心していたのに、彼の表情は強張っていく。さっき見たような、面倒くさそうな顔に戻っていく。



「いいよ、気にしなくていい」



吐き捨てるように言って、彼は立ち上がった。口を固く結んで目を逸らしたまま。顔を合わせようともしないで事務所へと戻っていく。



「ちょっと待ってよ、気になるに決まってるでしょ? 何がいけないの?」



すれ違い様に、彼の腕を掴んだ。
彼は足を止めたけど、振り向かない。結んでいた口がゆっくりと開く。



「悪いけど今日は先に帰る、放っておいてくれないか、お願いだから」




そっと私の手を解き、彼が呟く。僅かに目を細めた横顔が辛そうに見えて、もうこれ以上は何も問いかけることはできなかった。






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