聴かせて、天辺の青

ここを辞めて彼は、どうするの? 
ここを出て行く?



私はまだ彼のことを何にも聞けていないのに。



「すみません、ここお願いします」



戸惑うおばちゃんを残して、事務所へと急いだ。



ところが、事務所に彼の姿はない。
海斗が河村さんの席に座って、シフト表を綴じたバインダーを開いていた。私に気付いた海斗の表情はいつもより暗く感じられて、最悪を予想した。



「海斗、彼は?」



尋ねると、海斗はバインダーを閉じて視線を逸らす。視線の先は裏口の扉へ。



「まだ外にいるんじゃないか、今日は帰った方がいいって言ったから」
「そう、ありがとう」



少し安心した。帰った方がいいと言っただけで、辞めるとは言わなかったから。



「瑞香、まだ着替えてないからすぐには帰らない」



慌てて裏口へ走る私の背を、海斗の声が追い掛ける。それでも足は止まらなくて、勢いに任せてドアを開いた。




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