聴かせて、天辺の青

海棠さんと一緒に自転車を漕いで、アルバイト先へと向かう。私が先に走って、後ろから海棠さんがついてくる。



すっきりと晴れた空の下、穏やかな風を感じながら自転車を漕ぐのは気持ちいい。潮風にほんのりとした温もりを感じて振り向いた。



建ち並んだ民家が開けて海原が露わになる。きらきらと輝く水面が眩しくて、思わず目を細めた。



「前! 危ない!」



突然耳に飛び込んできた海棠さんの声。驚いて前方へと視線を戻したら、勢いよく自転車がやって来てる。尋常じゃないほど全力で自転車を漕いでいるのは若い男性。



「邪魔だ! 早く退け!」



私を睨みつけて声を張り上げる。怒鳴っているとしか思えないような大きな声に体が強張ってしまう。



早く避けなくちゃ、と慌ててハンドルを切った。
ところが、前から走ってくる男性も同じ方向にハンドルを切る。とっさにブレーキを握り締めたけど遅かった。



衝撃とともに体ごと自転車から放り出される。その後すぐに全身に走る痛みが、私の視界を真っ暗に閉ざしてしまった。

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