聴かせて、天辺の青
薄らと開けた視界の大半を占めているのは白い天井。視界の端に映る光は、窓から差し込む日差しだろうか。
ベッドの上で横になっていることと、ここが自分の部屋ではないことはわかった。だけど体中が痛くて、起き上がるどころか動かすこともできない。
ぼんやりとした視界の中に現れたのは両親の顔だった。
「よかった……、瑞香? 聴こえてる?」
母が目に涙を滲ませて、恐る恐る呼び掛ける。母の隣りには父が居て、私の顔を覗き込む。
「痛いところはないか? 看護師さんに連絡しよう」
こんなに間近で、父の顔を見たのは久しぶりかもしれない。目元の皺が増えたなあ……と思いつつ、父の口から出た言葉に自分が病院に居ることに気付かされた。
ゆっくりと記憶を辿ると、自転車に乗ってアルバイトへ向かう光景が蘇る。
清々しく晴れた空の青色、眩い海原と潮の香りをはらんだ風。前方から勢いよく走ってくる自転車と、漕いでいた若い男性の怖い形相。
ぶつかる寸前の映像が鮮やかに蘇ってきて、とっさに目を閉じた。
余所見をしていた私が悪いのだろう。
そういえば彼は?
「海棠さん?」
「海棠さんね、お手柄だったのよ」
彼の名前を呟いたら、母が安堵の表情を見せた。