聴かせて、天辺の青
私と同じ部屋に居るのが、そんなにも気に入らないのか。彼は早々に、二階の部屋へと戻っていった。
何のために居たの?
手伝ってたんじゃなかったの?
ツッコミたい気分が、うずうずと胸を刺激する。おばちゃんの手前、何にも言わないけど。
彼は去り際に、おばちゃんだけに薄っすらと笑顔を見せた。とても穏やかで柔らかな表情。あの朝とは、全く違う表情に驚かされる。
でも、それは一瞬だけ。
おばちゃんに背を向けて、私の前を通り過ぎる彼はほぼ無表情。私とは目も合わせない。まるで避けるような態度で、そそくさと台所を出て行った。
本当に、気に入らない。
もやもやした気持ちで食事の準備を手伝っているうちに、和田さんたちが下りてくる。
「瑞香ちゃん、何かあったんか? えらい暗そうやん?」
熱い味噌汁を懸命に啜りながら、和田さんが言った。
声は心配そうに聴こえるけど、表情はさほど心配している風でもない。いつものにやけ顔は、単に熱い味噌汁と攻防している顔にも見える。
ひとつだけ確実に言えるのは、少なくとも私の気持ちを察してくれていること。
彼が当分ここに居着くことは、もちろん和田さんも知っている。私があまりいい気分ではないことも。